アルコールチェック義務化は、事業者が運転前後に従業員の飲酒の有無を確認し、記録を残すことを求める制度です。2022年4月に道路交通法が改正され、白ナンバー車両を使用する事業者にも義務化が適用されました。さらに、2023年12月からはアルコール検知器の使用が義務付けられています。
本記事では、警察庁の発表をもとにアルコールチェック義務化の背景や対象事業者、具体的な実施方法、罰則、対応策まで詳しく解説します。企業の安全運転管理者や経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
アルコールチェック義務化の背景と目的

なぜ義務化されたのか?
アルコールチェック義務化の背景には、飲酒運転による重大事故の発生が挙げられます。特に2021年6月、千葉県八街市で発生した飲酒運転事故では、下校中の小学生の列にトラックが突っ込み、児童5人が死傷するという悲劇が起こりました。
この事故を受けて警察庁は、飲酒運転の防止強化を目的とした法改正を実施しました。従来、アルコールチェックは緑ナンバー(営業用車両)の事業者のみ義務付けられていましたが、2022年4月からは白ナンバー車両を使用する事業者にも適用されることになりました。
アルコールチェック義務化の対象事業者と車両の条件
アルコールチェック義務化の対象となる事業者は、特定の条件を満たす企業や団体です。この規制は、飲酒運転を防ぎ、安全な業務環境を確保するために導入されました。以下では、具体的な適用条件や対象事業者、対象となる業界について詳しく解説します。
✅ アルコールチェック義務化の対象事業者とは?
警察庁の発表によると、以下の条件のいずれかを満たす事業者が義務化の対象になります。
1. 白ナンバー車両を5台以上保有している事業者
- 白ナンバーとは?
- 白ナンバー車両とは、一般の自家用車や営業車など、業務で使用するものの商業利用(旅客・貨物輸送)を目的としない車両を指します。
- 運送業などで使用される緑ナンバー(事業用車両)とは区別されます。
- 車両のカウント方法
- 事業者単位ではなく、事業所ごとに5台以上の車両を保有しているかどうかが基準になります。
- 例えば、A社の本社が3台、支店が3台の合計6台を保有していたとしても、それぞれの拠点で5台未満であれば義務の対象外となります。
- 自動二輪車(原付を除く)は0.5台としてカウントされるため、例えば大型バイクを2台保有している場合は1台として計算されます。
2. 乗車定員11人以上の白ナンバー車両を1台以上保有している事業者
- マイクロバスや送迎車が対象
- 介護施設の送迎バス、学校のスクールバス、企業の社用バスなどが該当します。
- 1台のみの保有でも、乗車定員が11人以上であればアルコールチェック義務化の対象になります。
- 特に影響を受ける業界
- 教育機関(スクールバスを運行する学校や幼稚園)
- 福祉・介護施設(デイサービスの送迎バスなど)
- 社員送迎を行う企業(工場・倉庫の送迎バスなど)
3. レンタカー・リース車両も業務で使用する場合はカウント対象
- リース契約の車両もカウント
- 自社で購入した車両だけでなく、リースやレンタカーを業務利用している場合も台数に含まれます。
- 短期レンタルではなく、業務用として継続的に利用している車両はすべて対象となります。
- カウントされる具体例
- 企業が営業用にリースした社用車
- 建設業者が現場移動用に借りたレンタカー
- 配送や訪問サービスのためにレンタカーを利用する場合
4. 個人事業主・フリーランスでも要件を満たせば対象
- 法人だけでなく、個人事業主やフリーランスも該当
- 法人企業に限らず、個人事業主やフリーランスでも、業務で5台以上の車両を使用する場合は義務の対象となります。
- 例えば、建設現場で作業員が複数の車両を利用して移動する場合や、運送業者が契約ドライバーとして5台以上の車両を所有・管理している場合は、アルコールチェックを行う必要があります。
アルコールチェック義務化の対象となる業界

アルコールチェック義務化の対象となる業界は、業務で白ナンバー車両を一定台数以上使用する業種全般に及びます。具体的には以下のような業界が該当します。
1. 運送業・物流業
- 宅配便、引っ越し業者、企業間配送など
- 配送ドライバーが業務用車両(白ナンバー)を使用する場合、アルコールチェックが義務化されます。
2. 建設業・設備工事業
- 現場移動のための社用車やトラック
- 現場作業員が社用車で移動する場合や、建設機械を輸送するための車両が含まれます。
3. 営業車を利用する企業
- 保険会社、不動産会社、メーカーの営業部門など
- 社用車を5台以上保有している場合、営業車での移動が発生する企業も対象になります。
4. 介護・福祉業(デイサービスなど)
- 送迎用のワゴン車・バスを保有する介護施設
- 利用者を送迎するデイサービスや老人ホームなどが該当します。
5. 警備業
- 警備会社のパトロール車両、輸送警備車両など
- 企業の施設警備やイベント警備のための移動に使う車両も対象となります。
6. 教育機関(スクールバスなど)
- 幼稚園・学校・塾の送迎バス
- 子どもを乗せるスクールバスを運行している教育機関も対象になります。
事業規模や業種を問わず、一定の条件を満たせば義務化の対象
アルコールチェック義務化は、企業の規模や業種に関係なく適用されます。例えば、小規模な企業や団体であっても、以下の条件を満たす場合はアルコールチェックの実施が義務付けられます。
- 社用車を5台以上保有している
- 乗車定員11人以上の車両を1台以上保有している
- レンタカー・リース車両を業務利用している
つまり、「自社は小規模だから対象外」とは限らないため、必ず車両の保有台数を確認する必要があります。
アルコールチェックの具体的なルールと実施方法

アルコールチェックの義務化に伴い、企業は業務で車両を運転するドライバーに対して、運転前後のアルコールチェックを確実に実施することが求められます。チェックの方法や記録の保管、遠隔地での対応方法など、正しく運用するためのルールを詳しく解説します。
🔹 アルコールチェックの基本的な流れ
アルコールチェックは、運転前と運転後の2回、アルコール検知器を用いて酒気帯びの有無を確認し、その結果を記録・保管する必要があります。以下の流れに沿って実施します。
- 運転前チェック(出発前)
- 運転する前に、ドライバーの酒気帯びの有無を確認します。
- アルコール検知器を使用し、呼気中のアルコール濃度を測定します。
- 測定結果を記録し、飲酒が確認された場合は運転を禁止します。
- 運転後チェック(帰社後)
- 業務が終了し、運転を終えた後に再度アルコールチェックを実施します。
- 運転中に飲酒がなかったかを確認し、問題がない場合は業務終了となります。
- 測定結果を記録し、万が一飲酒が確認された場合は**厳格な対応(運転禁止・指導・報告など)**を行います。
- 測定結果の記録と保存
- チェック結果は**専用の記録簿(紙または電子データ)**に記入し、1年間の保存義務があります。
- 記録の改ざんを防ぐため、クラウドシステムやアプリを利用することも推奨されます。
- 安全運転管理者の監督
- アルコールチェックの実施状況を監督する責任者として、安全運転管理者が適切に運用を管理します。
- 異常値が検出された場合の対応や、チェックの適正性を確保するための監査を行う役割も担います。
🔹 アルコールチェックの方法(対面・非対面)
アルコールチェックは、対面での実施が基本ですが、遠隔地での業務がある場合は非対面(オンライン)での対応も可能です。それぞれの方法について詳しく解説します。
✅ 対面でのアルコールチェック(原則)
対面でのアルコールチェックは、安全運転管理者が直接ドライバーの様子を確認し、アルコール検知器を使用して測定する方法です。
対面チェックの流れ
- 安全運転管理者がチェックを実施
- ドライバーの顔色や目の充血の有無、呼気のにおい、応答の様子などを確認します。
- 異常が見られた場合は、アルコール検知器による測定を強化し、必要に応じて運転を禁止します。
- アルコール検知器で測定
- 国家公安委員会が認定したアルコール検知器を使用し、呼気中のアルコール濃度を測定します。
- 測定結果はデジタルで記録されるものが推奨され、手書きでの記録の場合は改ざん防止のためのチェック体制が求められます。
- 結果の記録と保存
- 測定した結果を記録簿に記入し、最低1年間保存します。
- デジタル管理システムを利用することで、紙の記録簿よりも管理が容易になります。
対面チェックのメリット
✔ ドライバーの表情や態度も確認できるため、不正を防ぎやすい
✔ その場で異常を発見し、即座に対応できる
✔ 安全運転管理者が直接監督することで、より厳格な運用が可能
✅ 非対面(遠隔地)の場合のアルコールチェック
直行直帰の社員や出張中のドライバーなど、事業所で対面チェックができない場合は、非対面(オンライン)でのチェックが認められています。
非対面チェックの方法
- テレビ電話や専用アプリを利用
- Zoom、Microsoft Teams、LINEビデオ通話などのテレビ電話ツールを使用し、安全運転管理者がドライバーの顔色や様子を確認します。
- 企業によっては専用のアルコールチェックアプリを導入し、遠隔地から測定結果を管理することも可能です。
- アルコール検知器の使用とデータ送信
- 携帯型アルコール検知器をドライバーに持たせることで、遠隔でも正確な測定が可能になります。
- 検知器の測定結果をリアルタイムで管理者に送信する仕組みを導入することで、不正を防止できます。
- チェックの記録・保存
- 測定結果のスクリーンショットや動画を記録として保存し、万が一の際に備えます。
- クラウドシステムを利用し、自動的にデータを蓄積・管理する方法が推奨されます。
非対面チェックの課題と対策
- 不正防止対策が必要
- 遠隔でのチェックは、不正行為(代行検査など)のリスクがあるため、映像の録画保存やGPSによる位置情報の記録が推奨されます。
- 通信環境の整備が必要
- 例えば、山間部や地下駐車場では通信環境が悪く、オンラインチェックが困難になる可能性があるため、代替手段を用意する必要があります。
- 緊急時の対応策を決めておく
- 飲酒が発覚した場合の報告フローや、直行直帰のドライバーへの対応手順を明確に定めておくことが重要です。
アルコールチェック義務違反の罰則とは?

🔹 企業・管理者の罰則
- アルコールチェックを実施しなかった場合、安全運転管理者の業務違反となり、公安委員会から是正措置命令や解任命令が出される可能性があります。
- 命令に違反すると、最大50万円の罰則が科されることもあります。
🔹 飲酒運転が発覚した場合の罰則
違反内容 | 罰則 |
---|---|
酒酔い運転 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
酒気帯び運転(0.15mg/L以上0.25mg/L未満) | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
酒気帯び運転(0.25mg/L以上) | 免許取り消し(欠格期間2年) |
車両を提供した企業・管理者 | 最大50万円以下の罰金 |
従業員が飲酒運転をした場合、企業にも厳しい責任が問われるため、確実にルールを守ることが求められます。
企業が取るべき対応と対策
アルコールチェック義務化に対応するため、企業は適切な体制を整え、安全運転管理を徹底する必要があります。ここでは、安全運転管理者の選任、アルコール検知器の導入、記録の保存方法、クラウドシステムの活用について詳しく解説します。
✅ ① 安全運転管理者の選任
対象となる企業は、安全運転管理者を選任し、アルコールチェックを徹底することが求められます。安全運転管理者は、事業所ごとに選任し、運転業務に関する安全管理を統括する責任者です。
🔹 安全運転管理者の選任条件
- 事業所ごとに、以下のどちらかの条件を満たす場合、安全運転管理者を選任する必要があります。
- 白ナンバー車両を5台以上保有
- 乗車定員11人以上の車両を1台以上保有
- 選任される人は、以下の要件を満たす必要があります。
- 20歳以上で、運転管理の実務経験が2年以上ある者
- 過去2年間に重大な交通違反をしていない者
🔹 安全運転管理者の主な業務
- アルコールチェックの実施・監督
- ドライバーの飲酒検査が適切に行われているか確認し、問題があれば対応する。
- チェック結果の記録・保存
- 測定結果を記録簿に記入し、1年間適切に管理する。
- 異常時の対応
- 酒気帯びが確認された場合の対応ルールを策定し、実施する。
- 運転者への安全指導
- 飲酒運転防止に関する教育や研修を実施し、周知徹底する。
✅ ② アルコール検知器の導入

アルコールチェックを実施するためには、適切なアルコール検知器の導入が必要です。
🔹 アルコール検知器の種類と選び方
アルコール検知器には、主に**「半導体式」と「燃料電池式」**の2種類があり、それぞれの特徴を理解して選定する必要があります。
種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
半導体式 | 安価で手軽に使用可能 | コストが低い | 誤作動しやすく、他のガス(タバコ・食品のアルコール)に影響を受けやすい |
燃料電池式(推奨) | 精度が高く、信頼性がある | 酒気帯びの測定精度が高い | 価格が高め |
✅ 燃料電池式のアルコール検知器が推奨される理由
- 警察の検査にも使用される技術で、精度が高い。
- 食品やタバコの影響を受けにくいため、誤検知が少ない。
- ドライバーの呼気アルコール濃度を数値で正確に測定できる。
🔹 アルコール検知器の運用ルール
- 常時有効に保持する(故障時の代替機を用意しておく)
- 定期的に点検・校正を行う(メーカー推奨の周期でメンテナンス)
- アルコールチェックの記録を保存するシステムと連携する(データ管理を効率化)
✅ ③ アルコールチェックの記録と保存
アルコールチェックの測定結果は、記録簿に詳細を記入し、1年間保存する義務があります。
🔹 記録すべき情報(必須項目)
記録項目 | 内容 |
---|---|
チェック実施者の氏名 | アルコールチェックを担当した安全運転管理者または責任者の名前 |
運転者の氏名 | チェック対象のドライバー名 |
車両ナンバー | 運転した車両のナンバープレート情報 |
測定日時 | アルコールチェックを行った日付・時間 |
測定結果 | アルコール検知器の数値(mg/L) |
追加指示事項 | 異常があった場合の対応内容(運転禁止、指導など) |
🔹 記録方法と保存ルール
- 紙の記録簿でも可だが、データ改ざんを防ぐため、デジタル管理が推奨される。
- クラウドシステムや専用アプリを活用し、自動保存できる環境を整えると管理が楽になる。
- 1年間の保管義務があり、警察の調査が入った場合には提出が求められることもある。
✅ ④ クラウドシステムの活用(ペーパーレス化で業務負担を軽減)
紙の記録簿では管理が煩雑になりやすいため、クラウド型の管理システムを導入することで、業務負担を軽減できます。
🔹 クラウドシステム導入のメリット
✔ 自動記録・保存 → 手作業不要でデータ改ざんリスクを低減
✔ リアルタイムでデータ共有 → 管理者が遠隔地のドライバーのチェック状況を把握可能
✔ ペーパーレスで業務効率化 → 紙の記録簿を探す手間が不要
🔹 クラウド管理システムの主な機能
機能 | 内容 |
---|---|
アルコールチェック記録の自動保存 | 測定結果をシステムに自動記録 |
異常値検出時のアラート | 酒気帯びの数値が基準を超えた場合、管理者に通知 |
データの改ざん防止 | 時刻・GPS情報を記録し、不正チェック |
管理者の遠隔監視 | 直行直帰の社員もオンラインでチェック可能 |
🔹 クラウドシステム導入時の注意点
- セキュリティ対策がしっかりしたシステムを選ぶ(個人情報の保護が重要)
- 使いやすいインターフェースを選定し、現場の運用に適したものを選ぶ
- 初期費用・ランニングコストを比較し、コストパフォーマンスを考慮する
アルコールチェック義務化はいつから?段階的な施行スケジュール

アルコールチェックの義務化は、2022年4月と2023年12月の2段階に分けて施行されました。それぞれの時期に異なるルールが適用されており、企業は段階的に対応を求められました。
🔹 第1段階:2022年4月1日施行(目視確認の義務化)
✅ 対象事業者
- 白ナンバー車両を5台以上保有する事業者
- 乗車定員11人以上の白ナンバー車両を1台以上保有する事業者
✅ 義務化された内容
- 運転前後に、目視で酒気帯びの有無を確認することが義務化
- 顔色・声の調子・呼気のにおいなどをチェック
- 酒気帯びの疑いがある場合は運転禁止
- 確認結果を記録し、1年間保存することが義務化
- 記録簿を作成し、企業が適切に管理する必要あり
📌 ポイント
- この段階では、アルコール検知器の使用は義務ではなく、目視確認が基本
- チェックの実施と記録保存が求められるため、企業は体制を整える必要があった
🔹 第2段階:2023年12月1日施行(アルコール検知器の使用義務化)
✅ 新たに義務化された内容
- アルコール検知器を用いた測定が必須に
- 目視確認ではなく、アルコール検知器による正確な測定が義務化
- 検知器の結果を記録し、1年間保存する必要がある
- アルコール検知器の常時有効保持が義務化
- 故障や電池切れを防ぐため、定期的な点検・メンテナンスが必要
- 代替機を用意し、いざという時に使用できる状態を維持することが求められる
📌 ポイント
- アルコール検知器を導入し、測定結果を正確に記録することが必須になった
- 2022年10月に施行予定だったが、アルコール検知器の供給不足により延期され、2023年12月1日から正式に義務化
まとめ:アルコールチェック義務化に正しく対応しよう
アルコールチェック義務化は、飲酒運転防止と企業のコンプライアンス強化を目的とした重要な法改正です。警察庁のガイドラインに従い、適切な管理体制を整えることで、事故を未然に防ぎ、企業の社会的信用を守ることにつながります。
✅ この記事のポイント
✔ 白ナンバー車両を一定台数以上保有する事業者に義務化
✔ 運転前後のアルコールチェックを実施し、記録を1年間保存
✔ 違反すると企業責任も問われ、最大50万円の罰則が科される可能性あり
✔ クラウド管理システムの導入で、業務負担を軽減できる
最新情報を把握し、企業の安全運転管理を徹底しましょう!
コメント