はじめに:マダニに対する正しい理解を
近年、ニュースや医療現場で「マダニ感染症」に関する報道が増えています。特に**SFTS(重症熱性血小板減少症候群)**に関する致死的なケースが注目されており、「マダニに噛まれたら死ぬの?」「何科に行けばいいの?」「SFTSって何?」と不安に思う方も少なくありません。
本記事では、信頼性の高い医療・行政機関の情報をもとに、マダニに噛まれたときの症状・受診科・SFTSの詳細・正しい対処法や予防策を時系列に沿って詳しく解説します。

マダニとは?屋内のダニとの違い
まず、マダニは室内にいる「イエダニ」や「ヒョウヒダニ」とはまったく異なる生物です。
- 大きさ:吸血前は2〜4mm、吸血後は10〜20mmにも膨らむ
- 居場所:森、草むら、河川敷、ゴルフ場、公園、農地など自然の中
- 活動時期:気温15度以上で活発化。特に4月〜10月は注意が必要
マダニは皮膚に口器を突き刺し、数日〜10日以上かけて吸血します。非常にしっかりと皮膚に密着するため、簡単には剥がれません。

マダニに噛まれたらどうなる?考えられる症状と感染症
マダニに噛まれた直後は、痛みもかゆみもほとんど感じません。そのため「ホクロと間違えていた」というケースもあるほどです。
しかし、マダニの体内にウイルスや細菌がある場合、以下のような重篤な感染症を引き起こすことがあります。
主な感染症:
感染症名 | 主な症状 | 特徴 |
---|---|---|
SFTS(重症熱性血小板減少症候群) | 発熱・全身倦怠感・消化器症状・意識障害など | 致死率27%前後。ウイルス性で特効薬なし |
日本紅斑熱 | 高熱・発疹・刺し口 | リケッチア感染症。抗菌薬での早期治療が重要 |
ツツガムシ病 | 高熱・発疹・刺し口 | 小型のダニ(ツツガムシ)が原因 |
野兎病・ダニ媒介性脳炎など | 地域限定の報告もあり、注意が必要 |
特にSFTSは注意が必要:
- ウイルスに感染しても症状が出るまで6~14日かかる
- 高齢者の重症化率が高い
- 有効なワクチンや抗ウイルス薬がない
問10 マダニに刺されたことにより感染する病気は国内に他にありますか?
答 日本紅斑熱、ライム病など多くの感染症がマダニによって媒介されることが知られています。北海道ではマダニによって媒介されるダニ媒介脳炎の患者が報告されています。また、ダニの一種であるツツガムシによって媒介される、つつが虫病もあります。SFTS、日本紅斑熱、ライム病、つつが虫病及びダニ媒介脳炎の日本国内での年間報告数(2019年~2023年)は下表のようになっております。
重症熱性血小板減少症候群* 日本紅斑熱 ライム病 つつが虫病 ダニ媒介脳炎 2019年 101 318 17 404 0 2020年 78 422 27 538 0 2021年 110 490 23 544 0 2022年 118 457 14 492 0 2023年 133 501 29 434 0 *重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る。)
- 2023年については、速報値
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは?マダニが媒介する命に関わる感染症
SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)とは:
- 2011年:中国で初めて報告
- 2013年:日本で初の患者を確認
- 国内では毎年100名前後の患者が報告されており、2023年には過去最多の133人
- 致死率は6〜30%、特に50代以上の死亡率が高い

症状の進行(時系列)
- 潜伏期間:6〜14日(この間は無症状)
- 初期症状:発熱、倦怠感、頭痛、下痢、嘔吐
- 中期症状:血小板・白血球の減少、黄疸、腹痛、筋肉痛
- 重症化:意識障害、出血傾向、多臓器不全、敗血症
感染経路:
- 感染マダニに刺される
- 感染動物(猫・犬など)の体液に触れる(特にペットや獣医師に注意)
- 2023年には国内初の「ヒトからヒトへの感染」も確認
マダニに噛まれたら何科に行けばいい?
状況別のおすすめ診療科:
状況 | 診療科 | 理由 |
---|---|---|
マダニが皮膚についている | 皮膚科 | 専用の器具で安全に除去できる |
発熱・下痢・嘔吐など全身症状 | 内科 | 感染症の検査・治療が必要 |
強い症状や重症化の疑い | 救急外来・総合診療科 | 迅速な対応が求められる |
※病院を受診する際には、**「いつ、どこで、どう噛まれたか」**を必ず伝えてください。
マダニに噛まれたときの対処法
正しい対処法:
- 無理に引きはがさない
- 早急に皮膚科を受診
- 発熱・倦怠感などがあればすぐ内科へ
- マダニを取った場合は密封し、病院に持参すると診断に役立つ
NG行動:
- 無理に引き抜いてマダニの体を潰す
- 消毒液や火で焼こうとする
- 症状が出ても自己判断で様子を見る
マダニの体液やウイルスが体内に逆流する危険
無理に引き剥がすことで、マダニの体が圧迫・破裂すると、体内のウイルスや細菌が逆流し、人間の皮膚や血管に入り込みやすくなるリスクがあります。
- 特に**SFTSウイルス(重症熱性血小板減少症候群)**は、マダニの唾液腺や腸管に存在
- マダニをつぶしたり中途半端にちぎったりすると、病原体が皮膚の傷口に直接入る可能性
- 感染リスクが数倍〜数十倍に跳ね上がるとも言われています(特に吸血から24時間以降)
感染源の特定ができなくなる
マダニ本体が残っていれば、医療機関でその種類を同定し、感染症リスクを評価することができます。しかし、無理に除去して潰してしまうと、検査に必要な情報が失われます。
- 特定のマダニ種(例:フタトゲチマダニ)はSFTS保有率が高い
- マダニを破損させると、診断の手がかりを失う
マダニの予防法|アウトドアやペット飼育者は特に注意
自然の中での服装と装備:
- 長袖・長ズボン(シャツをズボンに入れる)
- 首にタオル、帽子・手袋を着用
- 明るい色の服装(マダニを発見しやすくする)
- 虫よけスプレー(ディートやイカリジンを含む製品)

ペット対策:
- 散歩後は被毛をチェック
- 動物用ダニ予防薬を使用(獣医師に相談)
- 発熱・下痢などの症状があればすぐ動物病院へ
マダニによる死亡率と最新の感染拡大状況
- 厚生労働省・国立感染症研究所の報告によると、日本国内のSFTS致死率は27%前後
- 西日本中心に患者報告が多かったが、2023年以降、中部・北陸・関東にも拡大中
- 静岡県や長野県でも感染例が増加
- 猫・犬を介した感染、さらには人から人への感染例も報告されているため、全国で注意が必要

まとめ:マダニ被害を防ぐには「知識」と「行動」
マダニに噛まれたからといって必ず命に関わるわけではありません。しかし、知らないことによる「放置」や「誤対応」が重大な結果を招くこともあります。
最低限知っておくべきこと:
- マダニは自然に広く生息しており、春~秋はリスクが高まる
- 痛みが少ないため気づきにくく、吸血時間が長くなると感染リスクが上がる
- SFTSは非常に重篤な感染症で、致死率も高い
- 噛まれたら皮膚科 or 内科、症状があれば必ず医師に報告
- ペットや他人を介しての間接的な感染にも注意
しっかりとした対策と早期の医療対応で、多くのリスクは回避できます。
正しい知識を身につけ、安全で楽しいアウトドアや日常生活を送りましょう。

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