はじめに:言葉が出ない、声が出ない…「それ、ストレスのせい?」と思ったら
突然言葉が出てこない、あるいは声が出なくなった。
そんな症状に直面したとき、「もしかしてストレスで失語症になったのでは?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。
Googleなどで「ストレス 失語症」と検索してこのページにたどり着いたあなたは、もしかすると以下のような不安を抱えていませんか?
- 緊張すると話せなくなるのは失語症なのか
- 家族が急に言葉を話せなくなった
- 声が出なくなったが病院では「異常なし」と言われた
こうした症状の背景には、「失語症」または「失声症」と呼ばれる疾患が関係している可能性があります。しかし、これらはまったく別の原因・治療法を持つ症状です。
本記事では、「ストレスによる失語症は実在するのか?」という疑問を出発点に、
混同されやすい「失声症」との違いを医学的根拠に基づいてわかりやすく解説していきます。
ご自身やご家族の状態を見極め、適切な医療機関に相談するための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。
失語症とは?脳の障害によって引き起こされる言語の不自由

まず前提として、「失語症(aphasia)」はストレスで起こる病気ではありません。
これは医学的に明確に定義された脳の言語中枢の損傷によって引き起こされる言語障害です。
主な原因
失語症の原因の約8〜9割は、以下のような脳への器質的ダメージです。
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)
- 外傷性脳損傷(交通事故・転倒など)
- 脳腫瘍
- 脳炎や脳膿瘍
- 手術後の後遺症や脳の一部切除
つまり、脳の「言語をつかさどる領域」に物理的な障害が起きることが前提であり、精神的なショックやストレスが直接の原因であることは、極めて稀です。
症状の例
- 単語が思い出せない
- 会話が成り立たない
- 読む・書くができない
- 意味不明な言葉を話す
- 他人の話を理解できない
このように、失語症は「声が出る・出ない」ではなく、言語そのものがうまく使えなくなる障害であることが特徴です。
失語症のタイプと症状の違い
失語症にはいくつかの分類があり、脳のどの部位が障害を受けたかによって症状が異なります。
タイプ | 主な症状内容 |
---|---|
ブローカ失語(運動性) | 話したいが言葉が出てこない。文法が崩れる。理解は可能。 |
ウェルニッケ失語(感覚性) | 言葉はスムーズに出るが内容が支離滅裂。相手の言葉も理解できない。 |
全失語 | 話す、理解する、書く、読む、すべての言語能力が重度に障害される。 |
健忘失語 | 単語だけが出てこない。会話全体は可能だが回りくどくなる。 |
これらの失語症は、脳神経内科やリハビリ専門病院での診断・治療が必要です。
ストレスで失語症になることはあるのか?

結論から言えば、ストレスが「直接の原因」となる失語症は、基本的に存在しません。
複数の医療機関や論文によると、失語症の発症には脳の器質的損傷が必須であり、
心理的な要因だけで言葉を司る脳の部位が障害されることはありません。
ただし、ストレスは間接的に失語症のリスクを高める可能性はあります。
たとえば、慢性的なストレスが高血圧・動脈硬化を悪化させ、結果として脳卒中を引き起こす場合です。
この場合、**「ストレスが原因で脳卒中を引き起こし、失語症に至った」**という説明は可能ですが、
このような経緯であっても「ストレス性失語症」という医学的診断名が付くことはありません。
声が出ない…それは「失声症」かもしれません

一方、ストレスが原因で「声が出なくなる」という症状は、医学的にも広く知られています。
それが「失声症(aphonia)」です。中でもストレスが主因で起こるものは心因性失声症と呼ばれます。
心因性失声症とは
「転換性障害(conversion disorder)」の一種で、
強いストレスや精神的ショックが、声という身体機能に症状として表出するものです。
症状の特徴
- 声が突然出なくなる(だが喉や声帯に異常はない)
- かすれ声、ささやき声しか出せない
- 耳鼻科的には「異常なし」と診断される
- 聞く・理解する・書くなどの言語能力は保たれている
- 1週間以内に回復することもあれば、数ヶ月かかる場合もある
発症しやすい傾向
- 女性(特に30~50代)
- 思春期の子ども
- 職場や家庭での強いストレス環境下にある人
- 人前で話すことへの強いプレッシャーを感じる人
これらの症状を見てもわかる通り、失声症と失語症は「まったく別の疾患」であるという理解がとても大切です。
【比較表】失語症と失声症の違い
比較項目 | 失語症 | 失声症 |
---|---|---|
原因 | 脳の障害(主に脳卒中) | ストレス・心理的要因 |
声は出るか | 出るが言葉にならないことも | 出ない、またはかすれる |
言語理解 | 困難な場合がある | 保たれている |
話す能力 | 単語が出ない、構文が壊れる | 声自体が出せない |
治療 | リハビリ、脳疾患の治療 | 心理療法、薬物療法、安心できる環境 |
受診すべき科 | 脳神経内科、言語聴覚士 | 耳鼻科→心療内科・精神科 |
チェックリスト:どちらを疑うべき?
以下の質問に直感でチェックしてみてください。
【失語症が疑われるケース】
- □ 最近、脳卒中や転倒などで頭を強く打った
- □ 言葉の意味が分からなくなった
- □ 言い間違いや変な単語が出てしまう
- □ 会話の内容が支離滅裂になる
- □ 読んでも意味が理解できない
【失声症が疑われるケース】
- □ 強いストレス・トラウマがあった直後に声が出なくなった
- □ 耳鼻科で「異常なし」と診断された
- □ 声がかすれる、ささやきしか出ない
- □ 一人のときは出るのに、人前では出ない
- □ 話せないことでさらに不安・ストレスを感じている
2つ以上該当した場合は、早期に適切な専門医に相談することが重要です。
どこを受診すればいい?治療のポイント
失語症の場合
- 受診科:脳神経内科、神経外科、リハビリテーション科
- 診断方法:CT・MRI・言語テスト(SLTAなど)
- 治療法:言語リハビリ、作業療法、早期の介入が鍵
- リハビリ期間:数ヶ月〜1年以上かかることもある
失声症(心因性)の場合
- 受診科:まず耳鼻咽喉科 → 異常がなければ心療内科・精神科へ
- 治療法:
- 心理療法(カウンセリング、認知行動療法)
- 薬物療法(抗不安薬、抗うつ薬など)
- 発声訓練(スモールトーク、深呼吸、共鳴練習)
- 回復までの目安:数日~数ヶ月。早期対応が効果的
まとめ:混同しがちな2つの症状、違いを正しく理解して
- 失語症は脳の障害が原因で、ストレスでは発症しない
- 失声症は強いストレスが原因で声が出なくなる症状
- 声が出ないからといって、必ずしも失語症とは限らない
- どちらの症状も、早期の正しい診断と適切なケアが回復の鍵
- 不安を抱え込まず、医師や専門家に相談することが最善の道
医療の現場では、「早く気づき、正しく受診すること」が最も重要です。
声や言葉の不自由を感じたら、自己判断で放置せず、まずは耳鼻科・神経内科・心療内科などへご相談ください。

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